2.研究内容

エイコサノイド(プロスタグランジン・トロンボキサン・ロイコトリエン)や血小板活性化因子をはじめとするリン脂質由来の生理活性脂質,ステロイドホルモン,および脂溶性ビタミンは,広い意味での脂質メディエーターである。近年,脂質メディエーターのレセプターの解析が飛躍的に進み,従来考えられていたよりもはるかに多様な脂溶性分子種がさまざまな生物活性を示し,また臨床医学的見地からも重要な役割を担っていることが明らかになりつつある。本講座では,種々の脂質メディエーターの代謝酵素の機能解析を行い代謝調節機構を明らかにすることで,脂質メディエーターの生理的および病態生理学的意義の解明に寄与することを研究目的としている。

(1)アラキドン酸カスケード関連酵素群の酵素学的および分子生物学的研究

マリファナ中の精神活性物質のカンナビノイドに対する特異的受容体の内因性リガンド(エンドカンナビノイド)は不飽和脂肪酸のアラキドン酸の誘導体であり,その多彩な生物活性の解析が活発に行われている。本講座では,エンドカンナビノイドと関連化合物の生合成と分解に関与する酵素群の実体の解明をタンパクレベルと遺伝子レベルで進めている。最近我々は,エンドカンナビノイドのひとつであるアナンダミドや関連脂質化合物について,生合成にかかわる新規ホスホリパーゼDと加水分解を行う新規リソソームアミダーゼ酵素のcDNAクローニングおよびその発現に成功し,引き続きこれらの酵素の解析を精力的に進めている。また,プロスタグランジン生合成経路の律速酵素である脂肪酸シクロオキシゲナーゼ(COX)には,COX-1と-2の2種類のアイソザイムが存在するが,近年COX-2のガンの発生進展への関与が注目されている。そこで,種々のガン組織とガン細胞におけるCOXの発現動態を検討し, COXとガンの進展との関連を分子レベルで解明することを目指している。

(2)脂溶性ビタミン代謝酵素に関する酵素学的および分子生物学的研究

ビタミンAの生合成に関与するshort-chain dehydrogenase/reductase の新たな分子種がペルオキシゾームシグナルとともに核移行シグナルを持っていることを見出した。この酵素の基質特異性等の酵素化学的性質とともに、細胞内局在、さらに、核移行に伴って観察されたアポトーシスの発生機序についての研究を進めている

(3)シトクロムP-450と薬物代謝に関する研究

ステロイド合成に関わるシトクロムP-450の脳内での発現や、ステロイド合成の律速であるStARタンパク質の発現など酵素化学、分子生物学的研究を進めてきた。また、薬物代謝に関わるシトクロムP-450やNOSに関しても発ガン物質代謝との関連、抗てんかん剤等の薬物相互作用についての研究も行ってきた。