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香川医科大

測定法間比較のための回帰分析手法の検討

香川医科大学医学部附属病院検査部、同臨床検査医学
稲毛敏宏、多田達史、多田亜由、野口早苗 尾崎美世、梶川達志、田港朝彦

はじめに

 新しい測定法の導入などに際して、同一の物質に対する二つの測定法を比較するために回帰分析を行う場合がしばしばある。この場合、二つの測定法による測定値にはいずれも誤差が含まれているため、最小二乗法による一次回帰を適応すると、回帰直線の切片や傾きの正しい推定値が得られないことがあると指摘されている。

 われわれは、最小二乗法による一次回帰に代わる回帰分析手法としてノンパラメトリックな手法であるPassing-Bablok法を提案してきた。またパラメトリックな手法としては標準主軸回帰(幾何平均回帰)、Deming法などの直線関係式推定のための手法が知られている。

 これらの回帰分析を測定法間比較に適応する場合に必要なデータ数として、従来、40例、80例など様々な数が言われてきた。しかし、それらは経験的な数である場合が多く、理論的な裏づけをもって述べられることはなかった。

 今回、われわれはデータ数と検出力(1-β)の関係に注目し、「二つの測定法間の切片・傾きの差の検出目標を十分な検出力をもって有意差としてとらえるために必要な例数」という観点から、回帰分析に必要なデータの数を検討した。

方法

 例数が多いほど、あるいは目標とする差が大きいほど検出力は大きくなる。つまり、検出したい差(例えば切片0.1の差、あるいは傾き0.1の差)が大きいほど例数は少なくてすみ、小さな差を検出しなければならない場合は多くの例数を要する。したがって、検出目標を定めずに必要な例数を議論することはできない。

 今回は生化学検査で測定される一般的な検査項目について、その許容誤差限界1)を参考に、切片の差の検出目標を0.2(カリウム、カルシウム、総タンパク、アルブミン、尿酸、無機リンなど許容誤差限界の小さなもの)または2.0(上記以外のナトリウム、クロール、血糖、中性脂肪、尿素窒素、クレアチニン、逸脱酵素)、傾きの差の検出目標を0.02に固定して検討を行った。

 対象とした項目をその測定レンジ比(範囲の最大値/範囲の最小値)と分布型によっていくつかのグループに分類した。各グループごとに実際の臨床データから20〜200と例数を増やしながら無作為抽出したデータを検討に用いた。このデータを仮の真値とし、それに一定の変動係数(CV)になるように標準正規分布をもとにした誤差を追加したものを2系列作成して、これを測定法A、Bの測定値として、回帰分析を行い、切片と傾きを得た。このような操作を200回繰り返すことで、例数20〜200の間における切片と傾きの標準誤差を求め、これに基づき検出力を計算した。

 なお、検出力は文献2)に基づき、以下の式で求めた。

 ここで、βは第二種の過誤の危険率。SEは標準誤差。dsは差の目標値を表す。また、uは(1,1.02)に従う。

 求める必要サンプル数は検出力90%以上を与えることを基準に判断した。誤差のCVは1〜16%まで変動させ、誤差の大きさによる必要サンプル数の変化も検討した。

 検討に用いたプログラムはRuby言語(まつもとゆきひろ氏)およびMaTX言語(古賀雅伸氏)によって作成した。これらフリーの言語処理系を公開された先生方に謝意を表する。

結果

 測定レンジ比の大きなもの、許容誤差限界の大きなもの、測定誤差の小さなものは必要なサンプル数が少なくて済み、逸脱酵素(測定レンジ比 8以上)では測定誤差CV2%で20例で検出力90%に達した。一方、電解質(測定レンジ比 2以下)は許容誤差限界も小さいため測定誤差2%で100〜160例が必要であった。

文献

  1. 臨床検査の精密さ・正確さ評価法標準化ワーキンググループ:定量検査の精密さ・正確さ評価法指針.医学検査 46:1130-1142, 1997
  2. 永田 靖:検出力.入門統計解析法,63-68,日科技連,東京,1992
連絡先:087-898-5111(内線3674)

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