カテーテルという非常に細い管を血管の中に入れ、様々な脳神経疾患の治療をこのカテーテルを通しておこなう方法を、脳血管内治療といいます。脳血管内治療の最近の発達は目覚しく、様々な疾患の治療が開頭(頭皮を切開し、頭蓋骨を開ける)することなく低侵襲(患者様の負担が少ない)におこなえる最新の治療です。当科でもいち早くこの治療法を取り入れ、これまでに多くの症例の経験があります。
 当施設では、日本脳神経血管内治療学会指導医2名、専門医2名の計4人体制で治療を行っています。
                             日本脳神経血管内治療学会のページはこちらよりどうぞ)
また当施設は、以下のようなような脳神経血管内治療における最新器材・塞栓物質が使用可能です。
  Onyx液体塞栓システム:脳動静脈奇形の塞栓物質
  Enterprise VRD:通常の方法では治療が困難な脳動脈瘤の塞栓術に使用
  Merci リトリーバルシステム、Penumbra システム
    
:脳の血管が血栓により閉塞した場合、血栓を除去して血管を再開通させる
  各種頸部頸動脈ステント留置術関連器材:治療中の脳梗塞の予防器材や各種ステントがすべて使用可能

 脳血管内治療がおこなえる疾患としては、以下のようなものがあります。
    脳動脈瘤(未破裂脳動脈瘤、くも膜下出血)
    頚部頚動脈狭窄症(ステント留置術)
    頭蓋内動脈狭窄症
    椎骨動脈狭窄症、鎖骨下動脈狭窄症
    脳動静脈奇形
    硬膜動静脈奇形
    一部の脳腫瘍



 脳を栄養する脳動脈に、風船のようなふくらみができることがあります。これを、脳動脈瘤といいます(右図)。動脈瘤ができる原因はいまだ明らかにされていませんが、脳動脈の壁の一部に弱い部分があり、ここに持続的に血流が当たると、少しずつふくらんでくるとされています。動脈瘤が大きくなると、いろいろな神経症状がおこってきます。頭痛、複視(ものが二重にみえる)、視力の低下、視野が狭くなる、など、動脈瘤の場所によって様々です。しかし、一般的に動脈瘤は小さいことが多いため、このような症状がでることは少なく、動脈瘤が破裂しなければ無症状であることがほとんどです。破裂していない動脈瘤を、「未破裂脳動脈瘤」といいます。また、動脈瘤が破裂すると、「くも膜下出血」という病気になります。


未破裂脳動脈瘤
 最近では、MRI,MRAなどの検査機器が発達し、頭痛やめまいなどの精密検査や、脳ドックなどを受けられた患者様に、まだ破裂していない、未破裂の動脈瘤がみつかることが増えてきました。しかし、このようにして形成された動脈瘤は、必ず破裂するわけではありません。破裂する確率はいまだ明らかになっていませんが、一般的には、年間1%程度とする報告が多いようです。ただ、大きな動脈瘤や、形がいびつな動脈瘤は、より破裂しやすいとされています。未破裂脳動脈瘤が発見されたら、そのまま経過をみるのか、あるいは破裂の予防をするのか、十分に考えなくてはなりませんが、破裂を予防するためには手術が必要となります。
くも膜下出血
 「ある時突然おこる、今までに経験したことのないような、非常に強い頭痛」は、非常に危険なサインです。このような頭痛の原因として、動脈瘤の破裂が疑われます。動脈瘤が破裂すると、「くも膜下出血」という病気になります。破裂すると、脳をつつんでいる「くも膜」という膜と、脳の間に大出血をおこします。非常にこわい、危険な病気です。約半数の人が、破裂してすぐに死亡してしまうか、病院に運ばれても手のつけられない(治療が不可能な)状態となってしまいます。なんとか治療ができたとしても、寝たきりや植物状態となったり、重度の後遺症が残ってしまうことも稀ではありません。幸いにも、くも膜下出血が比較的軽症であり、治療して急性期を何とか乗りこえることができれば、日常生活に復帰できる人もいます。くも膜下出血がおこった後、治療をしないと、ほとんどの動脈瘤は2回、3回と、再破裂を繰り返します。そうなると、破裂のたびに状態はどんどん悪くなり、最後には命を落としてしまいます。再破裂を予防するためには手術が必要となります。(右図:頭部 CT 検査、赤矢印の白い部分が出血)



 「未破裂動脈瘤」の治療目的は、将来の破裂の予防であり、破裂して「くも膜下出血」をおこした動脈瘤の治療目的は、再破裂の予防です。治療方法は、大きく2つに分けられます。

開頭手術によるクリッピング術

 全身麻酔をかけ、頭皮を切開し、頭蓋骨をはずし、顕微鏡を使って脳のすきまから動脈瘤に接近します。動脈瘤に1-2cmくらいの大きさの洗濯ばさみのような「クリップ」をかけて瘤をつぶしてしまうことにより、破裂を予防します。
 (長所)
  ・顕微鏡を使用し、脳のすきまから直接動脈瘤を観察できる
  ・治療方法の長年の歴史があり、確立されている術式である
 (短所)
  ・開頭し、脳を分けて手術するため、患者様への侵襲や負担が大きく、術後しばらく安静が必要である
  ・脳深部にできた動脈瘤は手術が困難である
  ・重症なくも膜下出血の患者様では、脳が強く腫れていることが多く、手術ができないことがある

血管内手術による塞栓術
 大腿部(足の付け根)や肘部の太い動脈からカテーテルという細い管を挿入します。このカテーテルの中に、さらに細いマイクロカテーテルという管を通し、これを動脈瘤の中まで誘導し、動脈瘤の中にプラチナ製の「コイル」という細い金属糸を何本も入れていきます。これにより、動脈瘤を内側より閉塞してしまいます。
 (長所)
  ・開頭したり、脳に直接触れたりしないため、侵襲や負担が少なく、状態が良ければ手術翌日から歩行可能
  ・脳深部にできた動脈瘤でも治療可能である
  ・重症のくも膜下出血の患者様で、脳が強く腫れていても治療可能
である
 (短所)
  ・新しい治療法のため、治療の短期成績(治療後数年-10年)は良好であるが、長期成績(将来どうなるか、
   将来の治療効果はどうか)が不明である
  ・動脈瘤に入れたコイルが圧縮されることなどにより、動脈瘤が再発することがあり、再治療を要することがある
  ・動脈瘤が再発していないかどうか確認するため、半年-1年に1回ほどの割合で、数年の間検査が必要である


 香川大学脳神経外科では、経験の豊富な脳神経外科専門医および脳血管内治療指導医・専門医が治療にあたるため、いずれの治療方法も可能です。治療法にはそれぞれに長所・短所があるため、どちらの治療法がその患者様にとって良いのか、十分に議論することにより、それぞれの患者様にとって最適の治療法を選択することができます。もちろん、患者様自身のご希望も、十分に尊重されます。


香川大学脳神経外科血管内治療グループの手術成績
(2011年11月30日現在)

破裂脳動脈瘤:295例
  ・塞栓術成功率:98.3%、手術不可能:1.7%(5例)
  ・永続的手術合併症なし:95.9%(283例)

 手術合併症
  ・永続的神経症状出現率:4.1%(12例)
  ・術後短期の再破裂率:1.0%(3例)
  ・手技に起因する死亡率:0.3%(1例)
    (くも膜下出血そのものによる死亡は除外)

未破裂脳動脈瘤:182例

  ・塞栓術成功率:94.0%、手術不可能:6.0%(11例)
  ・永続的手術合併症なし:97.8%(178例)

 手術合併症
  ・一過性神経症状の出現率
    (退院時には消失、無症状):3.8%(7例)
  ・永続的神経症状出現率:2.2%(4例)
      脳梗塞:1.6% (3例)
      手術中の破裂:0.5%(1例)
  ・手技に起因する死亡率:0%








 のどぼとけの横をさわると、ドクドクと拍動している動脈があります。これが、頚動脈といわれる動脈です。頚動脈は、心臓から分かれて全身を栄養している大動脈という非常に大きな動脈から分かれたものです。まず、総頚動脈となり、これが頚部(くび)で内頚動脈と外頚動脈に分離します。内頚動脈は、主に脳を栄養する血管であり、外頚動脈は主に顔面や頭皮を栄養する血管です。年齢を重ねると、動脈硬化が進行してきます。動脈硬化が総頚動脈や内頚動脈に起こると、血管がだんだん狭くなってきます。これを頚動脈狭窄症といいます。さらに進行して血管が詰まってしまうと、頚動脈閉塞症といいます。
 原因は、多くは動脈硬化によるものです。動脈硬化とは、動脈を構成している内膜という部分にコレステロールや脂肪のかたまりなどが沈着し、内膜が肥厚するため、動脈が硬くなって、屈曲・蛇行するようになり、動脈の内腔が狭くなることをいいます。動脈硬化の原因としては、加齢、高血圧、糖尿病、高脂血症(コレステロールや中性脂肪が高い)、心疾患、肥満、多量の飲酒、喫煙などがいわれています。


 頚動脈は、脳に血を送る動脈です。よって、狭窄が高度になると、脳に血が行かなくなったり、狭窄している部分に血のかたまりができて、これがはがれて脳まで飛んでいき、脳血管を閉塞したりすることがあります。脳の血の流れが低下、あるいは脳血管が閉塞すると、脳梗塞となります。脳梗塞とは、脳細胞が、栄養不足となって壊れてしまうことをいいます。一度壊れてしまった脳細胞は、元通りになることはありません。よって、脳梗塞になると、何らかの後遺症が残ります。脳梗塞が軽度の場合、後遺症は軽くて済み、リハビリで回復することができますが、脳梗塞が重度であると、寝たきりや植物状態となってしまうこともあります。
 また、脳梗塞の警告症状というものがあります。一時的に脳の症状が出現し、短時間で治るようなもので、これを一過性脳虚血発作といいます。この時の脳の症状とは、片麻痺(右、あるいは左の手足が動かない、動きにくい)、感覚障害(右、あるいは左の手足がしびれる)、急に片方の眼が真っ暗となって見えなくなる、言葉がしゃべりにくい、ろれつが回りにくい、視野(目の見える範囲)がせまくなるなどです。たとえ症状が一過性で、すぐに治ったとしても、安心してはいけません。症状は何回か繰り返し、最後には脳梗塞となって、治らなくなってしまうからです。このような、脳梗塞の警告症状である、一過性脳虚血発作が起こったら、早めに検査をする必要があります。



 頚動脈狭窄症は、狭窄が高度の場合、放置すると脳梗塞となる可能性が高いため、治療が必要となります。つまり、治療目的は、将来の脳梗塞の予防です。

直達手術による頚動脈内膜剥離術
 全身麻酔をかけ、頚部を切開し、頚動脈を露出します。一時的に頚動脈を遮断し、頚動脈を切開し、動脈硬化により肥厚した内膜を除去します。最後に動脈を縫合し、血流を再開して終了します。
 (長所)
  ・直接肥厚した内膜を除去できる
  ・治療方法の長年の歴史があり、今までに確立されている術式である
 (短所)
  ・全身麻酔で手術するため、患者さんへの侵襲や負担が大きく、術後しばらく安静が必要である
  ・全身麻酔が困難なような、全身状態が不良の患者さんでは行えない
  ・頚動脈のそばにある、のどを支配する神経、食道、気管などが傷害され、発声傷害、飲み込みの傷害、
   呼吸障害などがおこることがある


血管内手術によるステント留置術
2008年4月より、頚部頚動脈狭窄症に対するステント留置術が保険適応となりました。
 大腿部(足の付け根)や肘部の太い動脈からカテーテルという細い管を挿入します。このカテーテルを頚動脈の中まで誘導し、狭窄部に「ステント」という超合金製のチューブをいれます。これにより、狭窄部を内側より拡張させます。
 このステント治療は、2008年4月より保険適応となりました。当院では以前からこのステント治療に取り組み、多くの患者様に治療を行っています。
当院はステント治療実施施設であり、3名の治療指導医・実施医が治療にあたっております
 (長所)
  ・全身麻酔は必要なく、局所麻酔で行うことができ、また、直接頚部を切開して動脈をさわったりしないため、
   患者さんへの侵襲や負担が少なく、手術翌日から歩行可能である
  ・全身麻酔が困難なような、全身状態が不良の患者さんでも行える
 (短所)
  ・新しい治療法のため、長期成績(将来どうなるか、将来の治療効果はどうか)が不明である
  ・再発していないかどうか確認するため、半年-1年に1回ほどの割合で検査が必要である


 香川大学脳神経外科では、経験の豊富な脳神経外科専門医および脳血管内治療指導医・専門医が治療にあたるため、いずれの治療方法も可能です。治療法にはそれぞれに長所・短所があるため、どちらの治療法がその患者さんにとって良いのか、十分に議論することにより、それぞれの患者さんにとって最適の治療法を選択することができます。もちろん、患者さん自身のご希望も、十分に尊重されます。

香川大学脳神経外科血管内治療グループの手術成績
(2011年11月30日現在)
頚部頚動脈狭窄症:144病変
  ・ステント留置術成功率:99.3%
  ・永続的合併症なし:95.8%(101例)

 手術合併症
  ・永久的神経症状出現率:2.8%(4例;脳梗塞)
  ・手技に起因する死亡率:1.4%(2例;術後脳出血)




 椎骨動脈も、頚動脈と同様、脳を栄養する血管です。よって、この血管が狭窄すると、脳梗塞を起こすことがあります。鎖骨下動脈は、上肢(手)に血液を送る血管です。よって、この血管が狭窄または閉塞すると、上肢に行く血流が低下し、上肢に冷感、だるさなどの症状がでることがあります。このどちらも、頚動脈のように、直接動脈を切開して治療することは困難なため、血管内手術により治療されることが多いです。








 脳を栄養している動脈、静脈の奇形です。動脈、静脈が複雑に入り組んでおり、正常の血管のように脳を栄養しているわけではありません。原因はいまだ明らかにされていませんが、多くは先天的なもの(生まれつき)とされています。

 動静脈奇形が脳を圧迫したり、動静脈奇形が破裂して頭蓋内に出血すると、脳の症状が出現します。脳の症状とは、頭痛、片麻痺(右、あるいは左の手足が動かない、動きにくい)、感覚障害(右、あるいは左の手足がしびれる)、言葉がしゃべりにくい、ろれつが回りにくい、視野(目の見える範囲)がせまくなる、拍動性(心拍と一致した)耳鳴り、けいれん発作などです。これらは突然起こることもあれば、徐々に起こることもあります。また、動静脈奇形は脊髄にできることもあります。
 脳または脊髄動静脈奇形の治療は一般に複雑、困難であり、かなり慎重にならなければなりません。出血をおこしているもの、圧迫による症状があるものなどは、積極的に治療を行うことが多いですが、無症状なものでは治療をせず、様子をみることも多いです。

 治療法は、直達手術(全身麻酔により、直接切開して動静脈奇形を摘出する)、血管内手術(マイクロカテーテルを動静脈奇形近くまで誘導し、血管内から塞栓する)、放射線治療(ガンマナイフ)があります。それぞれの患者さんによって、これらの治療法を組み合わせて治療します。どの治療法が良いのか、どの治療法を組み合わせればよいのかは、患者さんによって違います。


 香川大学脳神経外科では、経験の豊富な脳神経外科専門医および脳血管内治療指導医・専門医が治療にあたるため、いずれの治療方法も可能です。また、放射線治療ができるガンマナイフ装置は、現在日本国内に限られた数しかありませんが、当科の関連病院(岡山県、岡村一心堂病院)に設置しているため、スムーズに行うことができます。
 岡村一心堂病院ガンマナイフセンターのページはこちらよりどうぞ。





 血管奇形の一種ですが、脳の中ではなく、脳をつつんでいる硬膜という膜および硬膜の中を走行する静脈洞の病変です。

 眼の奥の海綿静脈洞という部分にできれば、眼球突出、結膜充血、眼球運動障害による複視、頭痛・顔面痛等がおこり、後頭部にできれば耳鳴り、視野障害、頭痛等が起こります。頭蓋内の血管に血液が逆流すると、脳卒中のときと同じような様々な脳の症状や、脳出血をおこすこともあります。

 最近は、血管内手術による治療が発達してきたため、まずは血管内手術で治療されます。その他、開頭術や放射線治療も場合によっては行われます。






 髄膜腫など一部の脳腫瘍に対し、手術中の出血を少量にして手術を安全に行えるようにするため、手術前に腫瘍の栄養血管を閉塞します。