2nd Dep of Surgery, KMU
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 ┏転移再発癌に対する癌免疫療法が香川大学倫理委員会で承認
 ┃┣癌免疫療法とは
 ┃┃┣━活性化自己リンパ球移入療法
 ┃┃┣━樹状細胞ワクチン療法
 ┃┃┗━超活性型成熟樹状細胞ワクチン療法の第1相臨床試験
 ┃┃
 ┃┗治療効果
 ┃
 ┣外来診察日
 ┃
 ┗参考文献






転移再発癌に対する癌免疫療法が香川大学倫理委員会で承認

 転移再発癌に対する3種類の癌免疫療法実施が、平成16年6月8日と7月30日に当大学倫理委員会より承認されました。したがいまして、香川大学医学部第2外科では8月1日より一定の条件に該当する患者様を対象とした癌免疫治療が可能になりました。

承認された免疫治療
 1.

転移再発乳癌・肺癌症例に対する活性化自己リンパ球移入療法

 2.

転移再発乳癌・肺癌症例に対する樹状細胞ワクチン療法

 3.

転移再発乳癌・肺癌症例に対する超活性型成熟樹状細胞ワクチン療法(第1相臨床試験)

癌免疫療法とは

 癌患者さんでは、健常人と比較して免疫力が低下しています。この免疫不全状態は癌の進行とともに悪化する傾向にあります。免疫療法は、低下した免疫力、特に癌に対する特異的免疫力を向上させ、癌の進行を抑制することが目的です。従来の免疫療法は(LAK、BCG療法など)、免疫力増強を目的としていますが残念ながら肝心の癌特異的免疫を活性化することができず、期待された効果が得られませんでした。最近の研究で、癌にのみ特異的に発現するいわゆる癌抗原が多く発見されました。それにともないこれら癌抗原に対する免疫力のみを高める腫瘍特異的免疫活性化療法が開発され臨床でも応用されるようになりました。その臨床効果は、従来の免疫治療と比較すると明らかに優れており、特に皮膚癌に対しては有効性が認められています。また他の固形癌では癌性胸膜炎・腹膜炎に対しては有効症例が報告されていますが、概して満足できる結果は得られてはいません。最近では、多くの施設で癌患者免疫力を効率よく活性化するための研究開発がすすめられ、その結果抗原性の高い(免疫系に認識されやすい)腫瘍抗原を標的とすること、キラーTリンパ球(CTL)誘導に成熟度の高い抗原提示細胞(樹状細胞など)を用いることで、癌免疫治療の臨床効果を向上できることが明らかになりました。香川大学第2外科では、多くの癌に発現し、かつ腫瘍抗原性の非常に高い4種類の癌抗原、MUC1ムチン、Her-2/neu、MAGE-3、survivinを標的とした免疫療法を臨床応用することになりました。上記の癌抗原を標的とした活性化自己リンパ球移入療法と樹状細胞ワクチン療法が実施可能です。

活性化自己リンパ球移入療法

 癌患者さんより採取した静脈血(30~50 ml)から遠心分離法により分離したリンパ球(約3千万個)に、癌抗原由来ペプチドを数時間から一晩かけて刺激パルスした後、試験管内で14日間活性化物質(抗CD3抗体とインターロイキン2)存在下に培養します。培養によって腫瘍抗原特異的Tリンパ球(CTL)を活性化すると同時に細胞数を約100倍まで増殖させることができます。活性化CTLを点滴静注により同一患者さんの体内に移入します(図1)。この治療を2週ごとに6回行い、6回治療終了時点で治療効果をCT検査やアイソトープ検査などの画像検査によって評価します。治療効果の認められなかった症例に対しては治療を中止し治療変更を検討しますが、効果が認められればさらに6回の治療を追加します。以降治療6回ごとに効果判定を行い、治療継続の是非を判定します。治療途中で重篤な有害事象が認められた場合は治療を中止します。
 本治療は自己の免疫細胞を培養活性化後再び移入するものであり、それによる拒絶反応など重篤な副作用を生じる可能性は少ないと思われます。ただこれまでの報告では活性化自己リンパ球移入療法により約50%の患者様に発熱や顔面のほてりが認められますので、それと同等の炎症関連症状が発生する可能性があります。これらの副作用が出た場合は、解熱剤の投与が必要となります。


治療対象

 ・

30から80歳までの前治療無効であった転移再発乳癌・肺癌症例

 ・

自家癌細胞に癌抗原MUC1、MAGE3、Her-2/neuあるいはSurvivinが強発現している

 ・

全身状態が比較的良好である

 ・

前治療終了後6週以上経過している

 ・

感染症、糖尿病、自己免疫病などの基礎疾患がない

 ・

インフォームドコンセント(理解と同意)が得られている


樹状細胞ワクチン療法

 樹状細胞は末梢血の白血球中にわずか0.1%しか存在しませんが、癌細胞を傷害することができるキラー細胞を活性化するのにとても重要な細胞です。最近の培養技術の進歩によって、この細胞を取り出し試験管内で増やす技術が確立されました。培養によって増殖誘導した樹状細胞に、正常細胞にはなく癌細胞にのみ発現している癌抗原と呼ばれる蛋白の一部(ペプチド)を結合させた後これを体内に皮下注射します(図2)。体内に移入された樹状細胞は、近くのリンパ節へ移動しそこでキラー細胞を活性化すると同時に癌細胞のみを攻撃するよう教育します。活性化キラー細胞は体内にある癌細胞を見つけるとこれを攻撃するようになり、その結果癌の増殖が抑制されます。
 実際には血球分離装置を用いて患者さんの末梢血白血球を採取します。この操作は通常2?3時間かかります。静脈内に留置されたカテーテル(あるいは点滴針)より静脈血を採取し、その中の白血球のみが血球分離装置により回収されます。赤血球など他の血球成分はその場で体内に戻されます。分離した白血球を活性化物質の含む培養液中で7?9日間培養し樹状細胞を誘導します。誘導された樹状細胞に癌抗原ペプチドを結合した後、再び体内へ皮下注射によって戻します。
 初回治療予定日より9日前に、血球分離装置による採血のため来院していただきます。その時回収し凍結保存した白血球を6回のワクチン治療に用います。樹状細胞は最終的に2 mlの生理食塩水に浮遊させた状態で鎖骨上窩(首のつけ根部分)の皮下にワクチン注射します。この治療を2週ごとに計6回行いますので治療期間は3ヶ月になります。治療は原則として外来通院にて行います。治療期間中1月ごとに血液検査と胸部レントゲン検査を行い副作用の有無や免疫力の強さを、さらに治療終了後にCT検査やアイソトープ検査などの画像検査を行い、それをもとに治療効果を判定いたします。
 樹状細胞ワクチン免疫療法は欧米のみならず日本においてもいくつかの公的医療施設で現在も行われています。これまでの報告では、癌に対する樹状細胞ワクチン免疫療法の効果は皮膚癌にはある程度有効であるものの(30%以上)、他の臓器癌に対しては満足のできる結果は認められていません。ただし癌細胞に特定の抗原が高発現している場合は、約20%の治療効果が期待できます。副作用として10から40%に発熱、寒気、体のほてりや接種部位の発赤が認められますが、入院を要したり生命を脅かすような重篤なものは報告されていません。試験管内で樹状細胞を培養誘導する際にGM-CSF、インターロイキン4、ピシバニール(溶連菌と呼ばれる細菌の菌体成分で感染性はありません)と呼ばれる活性化物質を用います。


治療対象

 ・

30から80歳までの前治療無効であった転移再発乳癌・肺癌症例

 ・

自家癌細胞に癌抗原MUC1、MAGE3、Her-2/neuあるいはSurvivinが強発現している

 ・

全身状態が比較的良好である

 ・

前治療終了後6週以上経過している

 ・

感染症、糖尿病、自己免疫病などの基礎疾患がない

 ・

インフォームドコンセントが得られている

超活性型成熟樹状細胞ワクチン療法の第1相臨床試験

 本臨床試験に用いる樹状細胞の誘導には、上記の樹状細胞誘導法で用いたGM-CSF、インターロイキン4、ピシバニールの他に新しく抗CD40抗体(樹状細胞表面の活性化関連分子に結合する抗体)を活性化物質として添加しています。これによって従来の方法で培養誘導した樹状細胞と比べてキラー細胞活性化能の極めて強い樹状細胞を得ることができます。この新しい方法を利用した樹状細胞ワクチン療法は、基礎実験での動物(マウス)モデルにおいてその腫瘍抑制効果と安全性が確認されています。ヒトでも同様の方法で培養誘導した樹状細胞が、癌治療に応用可能かを確かめることが最終目的です(図3)。


治療対象

 ・

30から75歳までの前治療無効であった転移再発乳癌・肺癌症例

 ・

組織適合性抗原HLA-Aタイプが2か24である

 ・

自家癌細胞に癌抗原MAGE3、Her-2/neuあるいはSurvivinが強発現している

 ・

全身状態が比較的良好である

 ・

前治療終了後6週以上経過している

 ・

本治療を単独で受けることが可能である

 ・

感染症、糖尿病、自己免疫病などの基礎疾患がない

 ・

インフォームドコンセントが得られている

治療効果

 抗原性の高い腫瘍抗原MUC1ムチンを標的とした腫瘍特異的免疫活性化免疫療法は、抗原を標的としない非特異的免疫活性化免疫療法(従来の免疫療法)と比較して明らかに生存期間が延長しました(特異的療法:16.75ヶ月、非特異的療法:3.8ヶ月)。現在までの治療有効率は約20%です。腫瘍縮小が認められない症例でも、悪性胸水の消失、血中腫瘍マーカー値の低下や腫瘍関連症状(痛みや呼吸困難など)の軽減などが認められる場合があります(図4)。



外来診察日

毎週月曜日午前

担当医

 紺谷 桂一

持参していただくもの
 ・

これまでの治療経過を記載した主治医の紹介状

 ・

最近の病巣を示すCT検査などのフィルム

参考文献

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