はじめに

近年、わが国でも高齢化や食生活の欧米化などの原因によって前立腺癌と診断される人が増えています。近い将来には前立腺癌は男性の癌のなかで肺癌に次いで2番目の罹患数になることが予測されています。

前立腺癌は初期には全く症状がないために、中高年男性では特に注意が必要な癌です。一般的に比較的ゆっくり進行しますが、病状が進むと転移を引き起こし、痛みや血尿、ひいては命にまで関わります。

また、前立腺癌の特徴の1つとして家族間で多く発生する場合があります。親兄弟や親戚に前立腺癌にかかったことのある人がおられるような場合には早めの検診が必要でしょう。

前立腺癌にはPSA(前立腺癌特異抗原)という優れた診断マーカーがあります。PSA検診の普及によって早期の前立腺癌、つまり転移のない状態で発見されるものが激増しています。早期に発見し、適切な治療を行うことで前立腺癌も他の癌と同様に根治が可能です。

 

当科の特徴

1.PSA監視療法

前立腺癌は高齢者に多く発生し、比較的進行が遅いという特徴があります。また、PSA検査の普及によって非常に早期に発見されることが多くなってきました。それらの中にはおとなしい性格の癌で、急いですぐに治療を開始しなくても当面は命に関わらないだろうと考えられるものが多く含まれていることがわかっています。そのような癌に対して直ちに手術や放射線治療を行うのではなく、定期的にPSAを測定したり、定期的に前立腺生検をしたりして経過を観察する方法がPSA監視療法です。きめ細かい観察によって、癌の進行の徴候をいち早くとらえて、必要ならばそこから根治療法に切り替えるというものです。これは前立腺癌に対する過剰治療や治療による副作用を避ける方法の1つです。

現在、PSA監視療法はオランダのエラスムス大学を中心に世界的に多くの国が参加して大規模な研究が進行しています。わが国ではわれわれの香川大学が日本全国の主要大学病院および基幹病院の代表として参加しています。

《どんな人が適応になりますか?》

前立腺癌の中でも特におとなしいと考えられるタイプの癌が適応となります。具体的には、診断時のPSAやグリーソンスコア※、生検での陽性本数などを総合して決定します。つまり、すべての前立腺癌患者に適応となるわけではありません。

*グリーソンスコア:簡単に説明すると、前立腺癌のおとなしさ(悪性度)を数値で表したものです。1から5までの5段階に分類し、病理標本で面積の一番大きいものと次に大きいものの合計の数値で表します。1+1の2から5+5の10までの範囲で示します。数値が大きくなるほど悪性度が高く、予後も悪い傾向があります。

《どのようにして経過を見ていきますか?》

基本的に3ヶ月ごとのPSA採血とエコー、直腸診などの診察を行います。また、1年後とその後も適宜前立腺の生検を行い、前立腺癌が悪化している徴候があればその時点で手術や放射線療法などの積極的治療を勧告します。

《危険性はありませんか?》

たしかに、診断時の前立腺生検所見やPSA値だけでは完全におとなしい癌だと診断することは難しい面があります。これにはやはり約20-30%の過小評価があると思われます。だからこそ経過観察中の定期的なPSA測定や前立腺生検が重要になってきます。リスクを十分に理解して、定期的な検査が確実にできる人に対して行われる治療法です。

2.前立腺癌小線源療法

低リスク前立腺癌といわれる比較的おとなしい癌に対して、小線源を前立腺に挿入することで治療を行います。挿入した線源は生涯体内に入ったままで、取り出す必要はありません。

ほとんどの場合、2泊3日の入院で済みます。

当院では2006年よりこの治療を開始しており、現在順調に稼働しています。

《どんな人が適応になりますか?》

転移や浸潤のない、早期の限局性前立腺癌が適応となります。さらにそのなかで、PSAの値や前述したグリーソンスコアなどから分類される低リスクから中リスク前立腺癌患者に適応があります。基本的に、低リスク前立腺癌に対しては小線源療法単独で治療し、中リスク前立腺癌に対しては、ホルモン療法や外照射療法を併用して治療します。

また、過去に前立腺肥大症の手術を受けた人や開脚姿勢が取れない人、前立腺が大きく、線源が埋め込みにくい人、骨盤内に放射線治療の既往がある人、前立腺内の結石が多い人、他の合併症で麻酔や手術が危険な人、その他不適当と認めた人は施行できない場合があります。

《副作用はありますか?》

術後早期に出現する急性期合併症としては、血尿、血精液症(精液に血液が混じる)、会陰部の皮下出血などがあります。さらに線源の埋め込みによる刺激症状としての頻尿、排尿時痛、会陰部痛、前立腺の一時的な腫脹による排尿困難、肛門痛や肛門出血も見られることがあります。排尿困難が強い場合には尿が出なくなる(尿閉)こともあり、短期間の尿道カテーテル留置が必要となることもあります。

晩期の合併症として、放射線の尿道への影響による尿道狭窄や、直腸潰瘍などがあります。

《挿入後の注意事項は?》

放射線は体外にはほとんど出ませんので、日常生活にはほとんど制限はありません。ただし、妊婦と長時間接することや、小さいお子様を膝の上に長時間のせることは避けた方がいいでしょう。

治療後1年間は治療カードを携帯していただきます。線源の半減期は約60日ですので、挿入後1年経過すれば、放射線は全く出なくなります。もし、1年以内に何らかの原因で亡くなられた場合には法令により前立腺を摘出してしかるべき処置をしなくてはなりません。

さらに、可能であれば前立腺内に金のマーカーを留置してさらに照射精度を高めるような工夫をしています。それによって現在は大きな有害事象も少なく、74Gy(グレイ)という高線量を照射できるようになっています。

《どんな人が適応になりますか?》

転移のない限局性前立腺癌ならほとんどすべての症例が適応となります。ただ、病状によってはホルモン療法を併用したほうがいい場合もあります。

《治療期間はどのくらいかかりますか?》

通常、当院では1回2Gyでトータル74Gyを照射しますので、37回照射することになります。外照射は月曜日から金曜日の週5日、つまり治療終了まで約7-8週間かかります。もちろん通院でも可能ですが、遠方の方や通院が難しい方は入院のうえ行うことも可能です。

3.勃起神経温存・移植手術

前立腺癌の手術の大きな合併症として尿失禁と術後勃起不全(ED)があります。

当科では条件によっては、可能な限り勃起神経を温存する精密な術式を行うようにしています。しかし、病状によっては勃起神経を大きく切除せざるを得ない様な場合があります。そのような場合には切除した神経のかわりに、自分の足の腓腹神経を勃起神経の代わりに移植する方法を行っています。われわれのデータでは約50-70%の症例で術後1-2年の経過で勃起機能が回復してきます。

4.腹腔鏡下前立腺全摘除術

当科では2010年より、前立腺癌に対して腹腔鏡を用いた手術を開始いたしました。

内視鏡を用いて手術を行うため、おなかに5-10mmの傷を5-6箇所作るだけで済みます。当然、痛みも少なく、術後の早期の回復も期待できます。

また、腹腔鏡手術のメリットとして、明るい拡大視野で手術が可能であるためにより精密な手術操作が可能となります。さらに、平均出血量も少なくて済みます。

 

前立腺癌

 

 

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