香川大学情報基盤センター : 4月23日 香川大学総合情報基盤センター公開講座「エイズとHIV」を開催

エイズとHIV

生命情報科学と医療からの若者へのメッセージ




4月24日(日)四国新聞掲載記事 四国新聞社より掲載許可を得ています。


対象:高校生、高校・中学校保健担当教諭、保健師、一般の方、本学教職員・学生
日時:平成17年4月23日(土) 午後1時ー3時
場所:香川県社会福祉総合センター1Fコミュニティホール

主催 香川大学総合情報基盤センター
共催 香川大学保健管理センター
後援 香川県、香川県教育委員会、NHK高松放送局、西日本放送、四国新聞社、FMマリノ78.0




総合情報基盤センターでは、センターで行っている先進的研究領域の一つである生命情報科学を、ウィルスを題材として紹介し、今後爆発的増加が予想されるHIV感染を、特に若い世代が身近な問題として考える機会を提供するという趣旨で公開講座を開催しました。

当日は 高校生など幅広い層からの参加がありました。岡部医学部長のHIVについての総論的紹介、生命情報科学とウィルス研究の権威である国立遺伝学研究所五條堀孝生命情報・DDBJ研究センター長によるHIVの起源をめぐる「サル起源説」対「サル濡れ衣説」の論争についての興味深い話、総合情報基盤センター神鳥教授による分子立体構造をもとにしたエイズ治療薬のデザイン、医学部看護学科田中教授の医療現場からの具体的でわかりやすいHIV感染の予防という、非常に充実した内容でした。講演後には参加者からの多くの質問もあり、講演は予定を大幅に過ぎて終了しました。

講演中はビデオ撮影も行われ、講演内容を今後教育に役立てていくことができるよう計画しています。





プログラム
開会の挨拶
香川大学学術担当理事 芳澤 宅實

ヒト免疫不全ウィルス(HIV)ってなんだろう?
香川大学医学部長 岡部 昭延
HIV の起源をめぐる研究のあれこれ ー生命情報科学からみたウィルスー
国立遺伝学研究所生命情報・DDBJ研究センター長 五條堀 孝

エイズ治療薬のデザイン ー分子の3次元構造からのアプローチー
香川大学総合情報基盤センター 教授 神鳥 成弘
身近なHIV感染とその予防
香川大学医学部看護学科 教授 田中 輝和

閉会の挨拶
香川大学保健管理センター 教授 鎌野 寛



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講演要旨・資料

ヒト免疫不全ウィルス(HIV)ってなんだろう?
香川大学医学部長 岡部 昭延

エイズが登場してまだ20年、この間、世界のエイズ患者は急増しています。この原因ウィルスがHIVです。このウィルスは、主に性行為という人間の営みを通じてヒトからヒトへ感染し、特徴的な症状もないまま、ゆっくりと体力を消耗させ、気が付いたときには取り返しのつかない状態にし、最後は死に至らしめる大変いやらしいウィルスです。最近日本でもHIV感染者が増加し、今や私たちの身近な問題となっています。エイズの研究は進んでいますが、皆さんのエイズに対する理解と協力なしにはエイズ撲滅はあり得ません。HIVてなんだろう?この質問にお答えします。

HIV の起源をめぐる研究のあれこれ ー生命情報科学からみたウィルスー
国立遺伝学研究所生命情報・DDBJ研究センター長 五條堀 孝

エイズは、HIVというヒト免疫不全ウィルスに引き起こされる感染症です。1985年、私たちは、レトロウィルス科に属するHIVの突然変異率が、ひとDNAより100万倍も高いことを見つけ出し、このウィルスに対するワクチン開発は困難を極めるであろうということを世界で初めて予測し警告を発しました。ご存知のように、幸いにして薬剤併用療法という化学療法が開発されエイズ対策に大きな貢献をしていますが、私どもの予測通りワクチン開発はまだ成功していません。
さらに、HIVの突然変異率がヒトDNAよりも100万倍も高いという事実は、HIVの起源や進化についても驚くべき知見を提供してくれました。実は、当時、HIVの進化的起源について大きな論争がありました。ひとつは、HIVはごく最近にサルからヒトに感染してきたという「サル起源説」であり、もうひとつは何百万年も前からHIVは人類集団に存在していたという「サル濡れ衣説」で、これらの2つの説は、真っ向から対立していました。HIVの100万倍も高い突然変異率は、ヒトに比べて100万倍も早く進化(変化)できることを意味します。これをHIVの超高速進化といいますが、これは「サル起源説」を強く支持します。そして、サル起源説が正しければ、HIVに進化的より近いサルのエイズウィルス(SIV)も存在するはずであることも予測しました。現在では、そのようなSIVの系統がたくさん存在することがわかり、サル起源説が正しかったことが証明されました。
このように、HIVの起源を中心としたエイズ研究は、その後のトリインフルエンザウィルスやSARVといった新興の感染症ウィルスに適切かつ迅速に対応する研究にまで発展してきています。今回は、このような研究が、バイオインフォマティクスというライフサイエンスとIT(情報技術)を融合した新しい分野によって成し遂げられている状況をできるだけやさしくご紹介いたします。

エイズ治療薬のデザイン ー分子の3次元構造からのアプローチー
香川大学総合情報基盤センター 教授 神鳥 成弘

生命現象は,極微のスケールで見れば,すべて分子と分子との関わり合いです。HIVがヒトに感染しエイズを発症するといった現象も例外ではありません。分子の世界に行って,HIVが感染・増殖するのに,どんな分子がどのように関わっているのかを見てくれば,有効な「薬」をつくることが可能です。なぜなら「薬」もまた分子なのですから。「分子の世界へ直接行く。」というのは,まだまだSFでの話ですが,現在では間接的に分子の世界を垣間見て,分子の姿形(3次元構造)をパソコン上に再現することができます。今回は,世界中で行われている「分子の3次元構造に基づいたエイズ治療薬開発の研究成果」について,その一部をご紹介します。

身近なHIV感染とその予防
香川大学医学部看護学科 教授 田中 輝和

日本ではHIV感染者が増え続けています。HIVが感染してすぐにエイズになる訳ではありませんが、一度HIVに感染すると、死ぬまで私達の体の中からHIVを追い出すことも、殺すこともできないのです。また、HIV感染を予防するために有効なワクチンもまだ作られていません。従って、今、私達にできることは、このウィルスに感染しないようにすることだけです。幸いに、HIVが私達の体内に侵入して来る経路は、通常の生活においては、3つだけであることが分かっています。第1はセックスによって、第2は血液を介して、第3は出生前後の母子感染です。では、なぜこの3つの経路だけなのか。その理由を十分に理解していただければ、HIV感染の予防方法も自然に分かってもらえると思います。最も大切なことは、HIVに接触しないこと、HIVに感染することのない行動をするという固い意志を持つことです。



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