1.レニン・アンジオテンシン・アルドステロン系の制御機構と、病態への関与の解明

主な活動目標としては、
 ・ 腎臓のレニン・アンジオテンシン・アルドステロン系の制御機構を解明とし、病態での変化を明らかにすることにより、新しい治療法を開発する
 ・ 腎臓のレニン・アンジオテンシン・アルドステロン系の尿中バイオマーカーを同定し、新しい診断法の開発につなげる
 ・ 世界中の研究施設のサンプル測定による共同研究活動を実施する
などを掲げており、積極的に国内外の他施設や企業と連携して活動を進めております。

2.塩と体液の調節とそのひずみによって生じる病態

「塩辛いものを食べると、喉が渇く?」、「尿中Na+排泄量から食塩摂取量を算出できる?」
その常識、間違いかもしれません。


ナトリウムイオン(Na+)を代表とする浸透圧物質は、生体の水分(体液)を維持する重要な因子です。そのため、Na+・体液バランスの異常は、脱水、浮腫、高血圧などを引き起こしてしまうだけでなく、脳・心血管・腎疾患リスクなども上昇させてしまいます。我々は、食塩を過剰に摂取すると何故、健康に良くないのか?体の中でどのようにNa+や体液が制御されているのか?などの疑問を全く新しい視点で捉え、「従来の塩の常識を覆す」世界最先端の研究にチャレンジしています!
実際に、「食塩摂取量が増加すると飲水量が減少し、食欲が増加する」、「食塩摂取量が一定であっても尿中Na+排泄量は一定とならない」など、これまでのコンセプトを覆す知見が次々と明らかになっています。最終目標は、「食塩摂取量変化が体に与える影響」および「生体のNa+・体液制御機構」の全容を解明し、健康に美味しく塩を食べられる未来をつくることです!

2-1. 組織局所に蓄積されるNa+の制御機構および病態との関連性の解明
これまで、過剰に摂取された食塩は腎臓によって尿中へ排泄されるため、尿中Na+排泄量はNa+摂取量とほぼ同等なると考えられてきました。しかしながら、健常人を対象として100日間以上行われた長期間の塩・体液バランス研究では、食塩摂取量を固定しても尿中Na+排泄量は一定とならず、皮膚や筋肉などの組織局所にNa+蓄積が生じることが明らかとなっています。どのようにして組織局所にNa+が蓄積されるのか?また、過剰なNa+蓄積が体にどのような悪影響を及ぼし、病気を引き起こすのか?などの解明を目指しています。

2-2. 多臓器による全身のNa+・体液ハンドリング機構の解明
従来、生体内のNa+・体液バランスは主に腎臓によって制御されていると考えられてきました。これに対して、我々の国際共同研究グループは、体内のNa+・体液の恒常性は、腎臓だけでなく、皮膚、免疫細胞、肝臓、筋肉、心臓など様々な臓器が連携し合うことによって維持されていることを証明してきました。様々な臓器のNa+・体液制御機構を解明することで、何故食塩摂取量の変化が全身に様々な影響を及ぼすのか?皮膚・免疫細胞・肝臓・筋肉などの機能異常も全身のNa+・体液バランスの破綻を起こし、様々な疾患を引き起こすのか?などの解明を進めています。
2-3. JAXAとの皮膚の機能に着目した共同研究
共同研究契約を香川大学と国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構(JAXA)間で正式に締結し、「より健全な宇宙生活」を目指した研究を進めています。国際宇宙ステーション(ISS)の日本実験棟「きぼう」で飼育されたマウスを利用し、微小重力で生じる皮膚の水分やナトリウムイオンなどの金属元素の変化を検証しています。
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香川大学の最先端研究の紹介記事です

3.(プロ)レニン受容体をターゲットとした癌治療の開発

 ・ (プロ)レニン受容体は2002年にレニン・アンジオテンシン系コンポーネントとして同定されたましたが、その後、Wntシグナルにも必須の分子であることが発見されました(Science 2010)。そこで我々は、癌との関わりを疑い研究を開始しています。
 ・ その結果、膵癌、脳腫瘍、大腸癌などで、過剰に発現したPPRがWnt/β-cateninシグナル経路を活性化し、腫瘍の病態に関わることを発見しました。同時に、ある種の癌患者では血中の可溶性(プロ)レニン受容体濃度が早期から上昇することを見出しています(特許出願)。
 ・ また、(プロ)レニン受容体に対する抗体治療の開発を目指し、Wnt/β-cateninシグナルをブロックし、癌細胞の増殖を抑制するモノクローナル抗体を作製したところ、実験的に癌の増殖を抑制することを明らかにしました(特許出願)。現在、様々な(プロ)レニン受容体の阻害薬を開発し、Wnt/β-cateninシグナル経路の活性化が病態の中心である疾患に対しての有効性を検証しています。
 ・ さらに最近では、(プロ)レニン受容体の異常がゲノムの不安定性に関わっていることも明らかとしたことから、今後、様々な癌や先天性疾患の新しい診断・治療ターゲットとなりうると考え、AMEDのサポートを受けて臨床応用に向けたトランスレーショナル・リサーチを進めている。

4.循環器疾患における交感神経活動の関与の解明

・ 全身の循環調節や臓器連関を考える上で、交感神経の役割は切っても切れないものでありますが、当教室はラットやマウスの交感神経活動を直接測定するテクニックを有している世界でも数少ない研究室です。
・ 本実験プロジェクトを担当している総合生命科学実験センターの藤澤氏らは、この領域でのオピニオンリーダーとして活躍していますが、最近では、テレメトリー法を応用して、交感神経活動を覚醒下で長期間持続モニターする技術を開発いたしました。
・ 本実験プロジェクトは独自のテクニックを駆使して行われるので、世界中の多くの研究チームとコラボして様々な生理活性物質や薬剤の交感神経活動に対する役割を評価しています。最近ではさらに、腎臓自体が脳へと交感神経シグナルを送るシステム、いわゆるafferent nerve activityの役割についても評価を進めています。

5. 新しい薬物の薬理学的特性の評価

私たちの研究室では、癌も含めた生活習慣病の動物モデルをたくさん有しており、様々な研究者や企業とコラボして新薬の薬理学研究に携わっております。特に、数多くの企業とは、新薬開発に関する共同研究を進めており、生活習慣病の克服を目指しております。