1.内分泌学実習の目的と背景

[ 目 的 ]

 内分泌学は生化学、生理学、形態学、化学、物理学など様々な研究方法から成り立っているが、本内分泌学実習では主に生化学と分子生物学的手法を使って、前立腺に及ぼす性ステロイドホルモンの作用を調べる。また、糖鎖結合蛋白質(レクチン)を利用したアフィニティークロマトグラフィーによる糖蛋白質(前立腺分泌蛋白質)の精製を行う。ラットを実験動物として用いて、ホルモン作用をin vivoで観察するとともに、生化学、分子生物学の基礎的技術を学んだり実験動物の取り扱いに慣れることがこの実習の目的である。また、実習を通じてこれまでに確立してきた内分泌学の知識の背景を理解し、その知識を個々に実験的に検証することも大事である。

[ 背 景 ]

 ・前立腺と性ステロイドホルモン

 前立腺(prostate)は雄性副生殖器(male accessory sex glands)の1つで、精液の成分となる前立腺液を分泌する外分泌組織である。ヒトの場合、膀胱のほぼ真下に位置して尿道を取り囲む(尿道が前立腺を貫通)一塊の組織であるが、動物種によりその形態は異なる。前立腺は男性ホルモン/アンドロゲン(androgen)の標的組織であり、器官発生から組織分化、分化機能の発現と維持に至るまでを男性ホルモンに依存している。また、前立腺関連疾患(前立腺がんや前立腺肥大症)の発生、進展にも男性ホルモンが深く関わっている。

 成熟動物を去勢(精巣摘出)して血中男性ホルモン濃度を下げると(男性ホルモンの約95%は精巣由来、残りは副腎で作られる)、前立腺上皮細胞の細胞死/アポトーシス(apoptosis)が誘導され、組織構造は大きく変化する(図1)。ラットの場合、組織重量は去勢後1週間で正常動物の約1/5にまで減少するが、この状態から男性ホルモンを投与すると上皮細胞の増殖、分化が誘導され、正常動物の状態にまで回復する。このように、成熟動物を用いてホルモン作用の不足によるアポトーシスやホルモンに依存した細胞増殖と分化を比較的容易に観察できることから、前立腺はホルモン作用の基礎研究においても有用な組織である。





 
               

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