・ホルモン分泌におけるフィードバックコントロール

 ホルモンが生体の様々な機能を適切に調節するためには、内的、外的な環境の変動に対応してその分泌量を変化させなければならない。ホルモン分泌の調節機序の中で最も単純なものは、ホルモン自身あるいはホルモン作用の結果として生じる物質(あるいは状態)による負のフィードバック調節(negative feedback control)である。例えば、血糖調節においては膵臓から分泌されるインスリンとグルカゴンが重要な役割を果たしており、インスリンは血糖低下作用を、グルカゴンは血糖上昇作用を示す。血糖が必要以上に増加するとインスリンの分泌が高まり、グルカゴンの分泌は抑制される。逆に、血糖が減りすぎるとインスリンの分泌は減少し、グルカゴンの分泌が増加する(図4)

これに対して、性ホルモン(男性ホルモンや女性ホルモン/エストロゲン[estrogen])の場合は、甲状腺ホルモンや副腎皮質ホルモンと同様、上位と下位の内分泌器官の組み合わせによる複雑な負のフィードバック調節が行われる(図4)。男性ホルモンの分泌は下垂体前葉からの性腺刺激ホルモン(gonadotropin)の1つである黄体形成ホルモン(luteinizing hormone, LH)によって促進され、LHの分泌は視床下部からの黄体形成ホルモン放出ホルモン(luteinizing hormone-releasing hormone, LH-RH)により促進される。一方、男性ホルモンはLHとLH-RHの分泌を抑制し、LHはLH-RHの分泌を抑制する。男性の場合、もう1つの性腺刺激ホルモンである卵胞刺激ホルモン(follicle stimulating hormone, FSH)は、精巣のセルトリ細胞(Sertoli cell)に作用して精子形成を促進する。FSHの分泌も男性ホルモンにより負のフィードバック調節を受ける。なお、フィードバック調節には、まれに正のフィードバック調節(positive feedback control)が存在する。女性の性周期における女性ホルモンとLHの関係(LHサージ)がこれにあたる。

本実習では性ホルモン分泌における負のフィードバック調節機構を利用し、去勢を行わずに血中男性ホルモン濃度を低下させる。すなわち、雄ラットに過剰量の女性ホルモンを投与することにより下垂体からの性腺刺激ホルモン分泌を抑制し、間接的に男性ホルモンの合成と分泌を抑制する。前立腺には女性ホルモン受容体が存在しており、女性ホルモンが直接作用を及ぼすことが知られている。しかし、この直接作用は、男性ホルモン濃度の低下を介した間接的な効果と比較すると無視できる程度のものである。

前立腺には女性ホルモン受容体が存在しており、女性ホルモンが直接作用を及ぼすことが知られている。しかし、この直接作用は、男性ホルモン濃度の低下を介した間接的な効果と比較すると無視できる程度のものである。
 

図4 ホルモンのフィードバック調節機構


               

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