香川大学医学部小児科

VOICE OF A WORKING DOCTOR

島の生活に寄り添うことは、
これ以上とない医療モデルであり、
楽しい仕事。
島の生活に寄り添うことは、これ以上とない医療モデルであり、楽しい仕事

小豆島中央病院
山本真由美 先生
新居広一郎 先生
土屋冬威 先生
(敬称略)
卒後いつから小豆島の病院で勤務されていますか

山本:私は香川医科大学を卒業したあと、大学病院小児科病棟、NICU、愛媛県での新生児医療研修を経て卒後3年目で小豆島の内海病院(現、小豆島中央病院)に赴任しました。 その後卒後4年目で結婚し、3人の子育てをしながら卒後6年目で小児科専門医を、16年目で小児神経専門医を、21年目で学位を取得し、島での診療を続けています。

新居:私は大学病院・四国こどもとおとなの医療センターで新生児医療を中心に従事した後、卒後10年目で当院に赴任しました。同年に学位取得および認定小児科指導医も取得させていただいています。

土屋:私は大学病院、四国こどもとおとなの医療センターでの後期研修を経て卒後5年目の途中から小豆島中央病院に赴任となりました。また、同時期から大学院へ入学し週に1回は大学に研究に行かせていただいております。卒後6年目には小児科専門医を取得しました。原稿執筆時点で臨床と研究の両方に励んでおります。
島生活はどのようにして過ごされていますか

山本:オンコール以外の休日はよほどでない限り呼ばれないので、海や山など島の魅力を満喫できます。病院や地域にあるいろいろなスポーツの同好会で汗を流したり交流を楽しんだりする方もいます。子育てもしやすく、子どもたちは外でのびのびと遊んで育っています。高松や岡山も意外に近いので、島の外に出かけたりもします。学会等も、留守番の都合はありますが参加できるようにしています。

新居:赴任にあたり、子ども3人(小学校、幼稚園、保育所)を連れて移住したわけですが、日々彼らに振り回されています。コロナ禍真っ只中ということもあり、お祭りをはじめ地域の行事や触れ合いが減っているのがさみしいところですが、地域の生活に馴染んでいく彼らを見守りつつ、のんびりと家族の時間を過ごさせていただいてます。

土屋:春は桜、秋は紅葉など四季折々の自然を眺めたり、病院スタッフの方々と美味しいご飯を食べに行ったりして島生活を楽しんでおります。また、小児二次救命処置(PALS)や新生児蘇生法(NCPR)など小児に関する講習が島内でさかんに行われており、積極的に参加しております。
小豆島中央病院はどのような病院で、小児科の勤務体制はどのようになっていますか

山本:小児科は外来診療が中心です。毎日午前午後の一般外来、予防接種のほか、慢性疾患を持つお子さんの定期診察、食物アレルギー負荷試験、虐待事例への対応、発達遅滞や発達障害をもつ児への相談やリハビリ、などを行っています。最近では不登校や心身症の相談の増加が目立ちます。病院の規模にしてはリハビリや心理職といった医療スタッフの職種にも恵まれていて、連携をとって診療にあたることができます。
入院可能なベッド数は10床あります。成人との混合病棟なので看護スタッフも専属というわけにはいきませんが、島内で小児科の患者さんが入院できる唯一の施設なので、可能な限り受け入れています。当病院には産婦人科もあり、コロナ禍以前は年間に150件前後のお産がありました。コロナ禍で減少し、最近は100件程度になっています。基本的に母子同室とし、赤ちゃんは小児科医がみています。また、病児保育や障害児の日中預かり、予防接種や乳児健診、保育園や幼稚園の園医、学校医といった地域の保健事業にも参加しています。
常勤の小児科医は3名です。香川大学から週に1~2回応援に来ていただき、外来診療をお願いしています。夜間や休日は常勤医が交代でオンコールで対応しています。また、私は第3子出産後育児休暇から復職して、小児神経専門医および学位取得までの間、週に1回研究日として大学に勉強に行かせてもらっていました。
島で医療を行っていく上で、どのような魅力・苦労を感じますか

新居:他地域と陸路での接続がなく唯一の小児科であるという責務は、その両価性を持っています。はじめて住民の一人として小学校や子ども園を訪れた時、「ここにいる子達の安全や当たり前の生活」は自分の仕事次第なのだと思い、気が引き締まりました。また、複雑心奇形をはじめとする先天性疾患など専門的な医療管理が必要な児も、島外への頻回受診が困難であるため当院が協力し併診するケースもあります。重症児はその頻度こそ少ないですが、幅広い分野の対応が必要になります。山本先生も後述しておりますが、搬送手段に制限があるため、どこまで自分や施設が対応できるのか考慮し、どのタイミングで搬送判断するのかという点が一番苦慮されるところかと思います。一方で、その学びは多く、また地域の生活に寄り添うことで住民の方々に頼りにして頂ける、その「貢献度」を肌で感じやすいように思います。

土屋:ご家族様からの質問への対応、病状説明での言葉選びなど、今まで上級医に頼っていた部分での苦労があります。その場で答えられなかった分からないことは持ち帰って自分で調べたり、院内や大学病院の上級医に相談したりして対応しております。島民の方々は質問への回答を急がずに待ってくださるし、若輩者である私の説明も真剣に聞いてくださるので島民の方々から成長する機会をたくさんいただいていると実感しております。
自分で診た患者様を定期的にフォローしていくことで患者様の症状の経過だけでなく成長も数か月、数年単位でみることができ、病気が治っていくこと、成長していくことの喜びを家族と同じように共有できることが魅力的です。また、どんなに忙しくて疲れていても患者様、ご家族様の『ありがとう』を聴けば疲れが吹っ飛ぶくらいうれしくなります。

山本:苦労することは、高度な医療が必要なケース、例えば呼吸管理が必要であるとか外科的な介入が必要、常に観察をしなければいけない新生児、などの場合には、高次医療機関、主に香川大学小児科やNICUに搬送していますが、搬送の手段(フェリー、ヘリコプター、救命艇)の都合もあるので、当院での管理がいいのか、搬送が必要なのか、どのタイミングで搬送するか、の判断に困ることがあります。 また、自分の得意分野にかかわらず、なんでも診ることが求められます。ただ、いろいろな症例が診られるので勉強になりますし、香川大学と連携して診療できるので安心です。
島ならではの魅力だと思うのは、赤ちゃんのころから継続して成長を見守れることです。小学生のころ入退院を繰り返していた子が、成人式のため帰省して着物姿を見せにきてくれたこともありました。また、当院は他科の医師や他の職種のスタッフにも相談しやすいと思います。自分が「こうしたい!」と思うようにできることも多いです。同様に、病院以外の保健師や園・学校などとも、子どもを囲んで支え見守る一員同士として相談したり、新しいことを始めることもできます。

島や地域での医療を目指す若い先生方に、メッセージをお願いします

土屋:私は後期研修の期間中に小豆島中央病院での診療を開始しましたが、年次が早いうちに経験できて本当によかったと思っております。予防接種、健診のような小児保健、外来診療を通してのプライマリケア、医療スタッフや他科の医師との連携、診療を島内だけで完結してよいか搬送が必要かどうかの判断など、やるべきことは非常に多岐にわたりますが、その分大変やりがいもあります。若手の先生方にはぜひ小豆島中央病院での診療を経験して小児科医としてのやりがいを直接感じて欲しいと思います。

新居:私見ではありますが、「仕事を楽しむ」ためには①自らの成長と②他者への貢献の両者を実感できることが重要と考えています。若手小児科医の間では「何を専門にしたいの?」というのは良く聞かれる話で、スペシャリストになることは自分のわかりやすい武器を作り①②をともに実現するにはいい方法です。一方で、その対比として幅広く知識を持つことで複数の情報を組み合わせて課題解決を行うジェネラリストという働き方もあります。また我々医師はbiomedical approach(生物医学的アプローチ)は得意ですが、医療の多くの問題解決には Bio-psycho-social approach (生物・心理・社会アプローチ)が求められ、若手医師にとって後者は難しい課題になっているように思います。島という地域の生活に寄り添うということは自然とジェネラリストとしての姿勢やBio-psycho-social approachが必要とされ、それらを学ぶためには、これ以上とない医療モデルであり、楽しい仕事なのではないでしょうか。

山本:「島での医療」というと、あまりたくさんのことができない、不自由で息苦しい医療環境というイメージがあるかもしれません。確かに、高度な医療はできません。でも、自分がファーストタッチをした患者さんの、その後の経過を確認していくことができます。子どもたちが元気に育っていくのを、健診や予防接種といった場で継続してみていくこともできます。また、難しい症例に出会っても、大学からのバックアップを得ながら診療できますし、アイディアをだしながら地域に密着した仕事をすることができます。そのぶん多くの人とのコミュニケーションが求められますが、自分の気の持ちようで十分楽しめる、充実した仕事ができる場です。若い先生方にも地域での医療をぜひ経験して、その楽しさを味わっていただきたいと思います。