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診療案内

乳がん術後の変形・乳房下垂など

乳房のかたちの治療

女性の16人に一人が乳がんを患うと言われています。乳がんの治療においては病変部を切除する必要がありますが、手術における切除により乳房の形は変化します。乳房は女性の象徴ともいう重要な器官であり、それが変形することは患者さんの精神面に大きな影響を及ぼします。
香川大学形成外科においてはこのような悩みから女性を救うため、乳がん切除後の乳房のかたちを修正する治療に力を入れています。

1.乳がんに伴う乳房の変形について

ひと口に乳がんと言っても、その進行程度やがん細胞の性質によって、切除しなくてはいけない領域が異なります。

図1:大胸筋・乳腺・乳房皮膚

図2:乳腺の全領域が切除された症例

図3:乳腺の部分切除

たとえば図1では右側の乳腺の全領域に加えて、乳輪、乳房皮膚、大胸筋も切除されています。図2の患者さんでは、乳腺の組織はすべて切除されていますが、乳頭および乳輪は残っています。
乳房温存手術においても、やはりがんの組織は切除する必要があります。その結果、乳房の一部にひずみが生じ、乳輪および乳頭の位置には若干のズレが生じます。図3は乳房温存手術によって生じた、乳房の変形の例です。このように、どのような手術が行われるかにより、術後の乳房の形態は大きく異なります。切除する範囲は乳腺外科医により、がんのタイプや大きさ、部位などが考慮されたうえで総合的に判断されます。切除により形の変わった乳房を、できるだけ元の形に近い状態に修復する手術は、形成外科医により行われます。

2.乳房の修正手術について

変形した乳房の形を修正する手術を、乳房再建術と呼びます。乳房再建術のやり方は多岐にわたりますが、大きく分けると、(1)自分の組織を使用する方法と(2)人工物(シリコン)を埋め込む方法に分かれます。乳房の再建手術は美容的な側面が大きいために、治療は自費であると誤解されている場合が多々あります。しかし状況にもよりますが、乳がん手術に伴う乳房の変形は、疾患の一部と解釈されますので、多くの場合は健康保険の適応になります。

3.再建手術の実際

乳房再建の手術は大きく分けて
(1) 自分の体の他の部位から組織を採取して移植する方法
(2) 人工物(シリコンの人工乳房)を用いる方法
の2種類に分けられます。

A.自身の組織を使用する手術

腹部の組織を移植する場合と、背部の組織を移植する場合があります。ここでは腹部の組織を移植する方法についてお話します。

図4:腹部より採取する組織

図5:皮膚および筋肉に、血管をつけて採取し、胸部に移植します。
お腹の筋肉はできるだけ温存します。
(Berish Strauch et al. Atlas of Microvascular Surgery より)

図6:術前

図7:マウンドの再建後

図8:乳頭の再建後

手術は基本的に2段階に分けて行います。図4および図5のごとく、腹部から組織を採取し、それを胸に移植して図7のようなマウンド(土台)をまず作ります。そして何か月か経過してから乳輪と乳頭を作成する手術を行います。乳房のマウンド作る手術のために必要な入院期間はだいたい10日くらい、乳頭を作る手術のための入院期間はだいたい5~6日間くらいです。

図9:乳腺を全摘した直後

図10:腹部組織の移植後

再発の可能性が少ないと判断された場合には、乳がんの手術と同時に乳房の再建が行われる場合もあります。図9は乳腺を全摘した状態です。この状態において、腹部より組織の移植を行い、図10のように乳房を作り直しました。

B.インプラントを用いた手術

シリコン製の人工乳房(インプラント)を用いた乳房の再建は、従来は保険適応の対象とされておらず、患者さんは60~100万円程度の手術費用を自己負担しなくてはいけませんでした。しかし2013年6月より、一定の条件を満たした施設においては保険を使用することが、厚労省の協議会で認められるようになりました。香川大学病院は認定施設であり、保険によるインプラント治療をお受けになることができます。

図11:乳腺を全摘した直後

図12:腹部組織の移植後

まず、皮下にエキスパンダー(皮膚を伸展させるためのバッグ)を埋め込みます(図9)。そして1週間~2週間に一度食塩水を注入することにより、乳がんの手術により萎縮した皮膚を拡張します(図10)。乳房のマウンドを作成したのちに(図11)、乳頭を作成します。

図13:マウンド作成後

図14:乳頭の作成後

C.方法の選択

以上のべたように、乳房を再建する方法には大きく分けて二通りありますが、それぞれに利点と欠点があります。ごく簡単に両者を比較すると、以下のようになります。

 利点欠点
自家組織生涯にわたり安定
自然な質感
手術が複雑
体の他の部位にメスが加わる
シリコン手術が簡単
他の部位にメスが加わらない
数十年後に入れ替えの可能性あり
大きな乳房には適さない

患者さんごとに年齢や乳房の形、乳がんの病期・放射線療法の併用の有無は異なります。
これらの要素を考え合わせて、その患者さんにあった手術方法を選択することが必要です。
どのような再建方法があるのかをご説明させていただいた上で相談しながら、その人にとりベストの方法を選択しています。

初めて香川大学病院を受診される患者さんは、
最寄りの医療機関からの紹介状をお持ちになった上、
予約をお取りいただきご受診ください。

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