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腎細胞がん

腎細胞がんとは

腎細胞がんは、腎臓にできるがんのうち、腎実質の細胞ががん化して悪性腫瘍になったものです。
同じ腎臓にできたがんでも、腎盂にある細胞ががん化したものは腎盂がんと呼ばれ、腎細胞がんとは区別されます。
腎細胞がんと腎盂がんでは、がんの性質や治療法が異なります。なお、一般的に腎がんとは腎細胞がんのことをいいます。

腎細胞がんの頻度

腎細胞がんにかかる割合は、人口10万人あたり男性8.2人、女性3.7人と約2.7:1で、男性に多い傾向があります。
腎細胞がんは50歳ごろから増加し、70歳代まで高齢になるほど高くなります。

腎細胞がんの症状

腎細胞がんには、特徴的な症状はありません。
以前は血尿や腹部の腫瘤、痛みなどの症状をきっかけに見つかることが多かったのですが、近年はエコーやCTなどの画像診断機器の進歩により、健康診断や他疾患の検査中に無症状のまま見つかることがほとんどです。
多くの他のがんと同様に、腎細胞がんも早期に発見された場合には根治が可能です。
一方で、肺や脳、骨に転移したがんが先に見つかり、結果として腎細胞がんが見つかることも少なくありません。

腎細胞がんが大きくなると、血尿が出たり、背中・腰の痛み、腹部のしこり、足のむくみ、食欲不振、吐き気や便秘、おなかの痛みなどが生じたりすることもあります。
気になる症状がある場合には、早めに医療機関を受診することが大切です。

腎細胞がんの組織型やリスクファクター

腎細胞がんは組織学的には6種類に分けられます。
腎細胞がんの組織型は、治療を選択するときの判断材料の1つです。
また、組織型によって、病状の進行や良くなる傾向も異なることが知られています。

腎細胞がんの発生する要因としては、喫煙と肥満があります。
VHL遺伝子などの遺伝子異常により家系内発生が見られるものもあります。
また、長期間透析療法を受けている方は、一般の方に比べ約9倍の腎細胞がんの発症リスクがあるといわれています。

検査

腎細胞がんでは、エコー、CT、MRIおよびPETなどの検査を組み合わせることによって、悪性度や進行度を検査していきます。
画像検査で診断ができない場合には、エコーやCTガイド下に生検を行うことがあります。血液検査は、全身状態や腎臓の機能を調べるために行います。

超音波(エコー)検査

健康診断や人間ドックでよく用いられ、こちらの検査で腎細胞がんが見つかることもあります。
ただし、体の全体を評価するためには超音波検査だけでは不十分なため、CT検査などを追加することが一般的です。

CT検査

一般的な腎細胞がんでは、診断のために造影剤を使ったCT検査が行われています。
造影剤を静脈から急速に注入し、短時間にたくさんの画像を撮影することで、がんと考えられる部位の血液の動態をみる撮影方法です。
肺への転移がないかを調べるために、胸部の撮影を行うこともあります。

MRI検査

MRI検査では、磁気を利用してがんの大きさや周囲臓器への広がり、良性腫瘍か悪性腫瘍かを診断します。
CT検査で使われる造影剤に対してアレルギーがある場合や、CT検査や超音波検査のみでは診断が難しい場合に行います。

生検

細い針を刺して組織の一部をとって、がんであるかどうか、悪性度はどうかなど、組織の状態を顕微鏡で詳しく調べる検査です。
いろいろな画像検査を行ってもはっきりとした診断ができず、それが治療に支障を来す場合に行われることもあります。

PET検査

がんの再発や、他の部位への転移を診断するために行われることがあります。

血液検査

体の状態を把握するために行います。腎細胞がんでは、現在のところ、診断や治療効果の判定に使用できるような、特定の腫瘍マーカーはありません。

病期(ステージ)と治療の選択

治療方法は、前述した検査の結果から診断されたがんの進行の程度や体の状態などから検討します。
がんの進行の程度は、病期(ステージ)として分類します。
腎細胞がんに対する標準治療は手術(外科治療)ですが、がんが小さい場合は、体への負担が手術よりも少ない局所療法が選択されることも増えてきています。
また、がんが広がっていたり、転移がみられたりする場合に、薬物療法や放射線治療を行うこともあります。
治療法は標準治療に基づいて、体の状態や年齢、患者さんの希望なども含め検討し、担当医とともに決めていきます。

香川大学泌尿器科では早期腎細胞がんに対しては患者さまに対する負担を減らすべく、腹腔鏡や手術支援ロボット(da Vinci)による低侵襲手術を積極的に行っています。
また、進行腎細胞がんに対し有効とされる分子標的治療薬の豊富な使用経験を有しており、国内外の治験にも積極的に参加し、腎細胞がん治療の発展に寄与しております。

手術(外科治療)

一般的に、腎摘除術が標準的です。手術の術式としては、おなかを切開して行う開腹手術や、おなかに開けた小さな穴から腹腔鏡を入れて行う腹腔鏡手術があります。当院では腹腔鏡手術を2002年から導入しております。
2009年以降では腎細胞がんに対する腎摘除術(部分切除を含む)を受けた患者さんのうち、8割近くの方が腹腔鏡手術にて治療を受けています。
近年、片方の腎臓を全部摘出することで将来的に腎機能障害を発症する危険性があることが問題となってきています。
そこでわれわれは小さい腎細胞がんの方には可能な限り腫瘍のみを摘出する腎部分切除術を行うようにしています。
腎部分切除術では、開腹手術や腹腔鏡手術の他に、手術支援ロボット(da Vinci)を遠隔操作して行うロボット支援手術を行っております。

また、腎細胞がんは、転移巣があっても原発巣(腎がんそのもの)を摘出することで、予後が延長することが知られています。
体力があり、摘出可能と判断された患者さんには手術治療により腫瘍の摘出を行います。
また、転移巣に対しても、手術で取りきれる場合には、摘出手術を行うことがあります。
手術の術式は、がんや体の状態などによって決められます。

早期の腎細胞がんの場合、10日から2週間程度で退院することが出来ます。
通常は、手術で片方の腎臓を摘出しても、残ったもう片方の腎臓で機能を補うことができるため、日常生活に支障を来すことはあまりありません。
しかし、自分の腎臓の機能のみでは生命維持が難しい場合には、人工透析の導入となることもあります。

薬物療法

原発巣(腎細胞がんそのもの)や転移巣が手術治療で取りきれない患者さんが対象になります。
腎細胞がんの薬物療法には、分子標的薬治療と免疫療法があります。薬物療法の主流は、長らく免疫療法の1つであるサイトカイン療法でしたが、2006年より日本でも分子標的薬による腎細胞がんの治療が出来るようになりました。
現在では、分子標的薬治療が1次治療(初回治療)の標準治療となっています。

分子標的薬治療

分子標的薬は、癌の増殖シグナルを分子レベルで狙い撃ちすることで効率的にがん細胞へ作用することができ、正常細胞への影響を少なくすることができます。
経口薬としてスニチニブ、パゾパニブ、ソラフェニブ、エベロリムス、アキシニチブ、カボザンチニブがあり、注射薬にテムシロリムスがあります。
これらは1次治療だけでなく、2次治療、3次治療でも選択されます。腫瘍の組織型や病状に応じて、投与する薬剤を決めていきます。
治療によってあらわれる副作用は使用する薬剤ごとに異なりますが、手足症候群、発疹、口内炎、間質性肺炎、高血圧、心機能障害、甲状腺機能低下、骨髄抑制、感染症、高血糖、脂質異常、腎不全、アレルギー、下痢、疲労感、食欲不振などがみられることがあります。
そのため、分子標的薬の治療開始時には、副作用に対応し用量を調整するために入院していただくこともあります。
状態が安定すれば、通院で治療することが出来ます。
なお、当院では手足症候群の副作用に熟知した看護師によるオリエンテーションを受けることが出来ます。
また、口内環境の保湿や清潔保持のために、分子標的療法の初期から歯科口腔外科と連携しケアをするようにしています。

免疫療法

免疫療法とは、サイトカイン療法や免疫チェックポイント阻害剤による薬物療法のことです。
サイトカイン療法は、以前は進行腎細胞がん治療の第一選択でしたが、現在は分子標的治療薬が投与出来ない患者さんや、肺転移巣単独の患者さんなどに投与が行われるようになっています。
インターフェロンやインターロイキン2等の薬剤を注射して治療します。
治療の奏功率は15~20%程度とされています。
インターフェロンは週2~3回、インターロイキンは週2回程度注射剤を投与します。
インターフェロンは手技をマスターすれば、自宅にて自己注射が可能であり、通院の負担を軽減することが可能です。治療によってあらわれる副作用の症状はさまざまです。
個人差が大きいですが、一般的には、発熱やだるさ、食欲不振、悪心・嘔吐(おうと)、頭痛、脱毛、白血球減少などが報告されています。
また、うつ症状が見られることがあります。気持ちが落ち込んで優れない場合には、早めにご相談ください。

免疫チェックポイント阻害剤による免疫療法は、1次治療から使用されます(自己免疫疾患や間質性肺疾患がある場合は副作用の危険性が高く使用できないことがあります)。1次治療では前述の分子標的薬との併用や免疫チェックポイント阻害薬を2剤使用します。具体的には、ペンブロリズマブ+アキシチニブ、アベルマブ+アキシチニブ、ニボルマブ+イピリムマブがあります。現在多くの治験がされており、新しい薬剤の出現や新しい組み合わせなど今後治療体系は変化していく可能性があります。

免疫チェックポイント阻害剤の主な副作用としては、疲労感、味覚異常、吐き気のほか、下痢・口内炎などの胃腸障害、かゆみ・発疹などの皮膚障害があります。
その他、腎臓や肝臓などの内臓機能の障害、糖尿病や甲状腺機能障害などの内分泌系の障害、貧血、横紋筋融解症、間質性肺炎など、全身のあらゆる部位にさまざまな症状を引き起こす可能性があります。
免疫チェックポイント阻害剤による治療終了後、数週間から数カ月たって副作用があらわれることもあるため注意が必要です。

療養上の注意点

片側の腎臓を摘出して腎臓が1つになったとしても、残った腎臓が正常に働いていれば、通常は生活に支障を来すことはなく、日常生活を送る上での特別な注意はありません。

腎臓の機能に問題がなければ、多くの場合、食事を制限する必要はありません。
暴飲暴食を避け、消化のよいものを規則正しく食べましょう。ただし、慢性腎臓病の予防のためには、塩分をとりすぎないようにし、水分をしっかりとることが大切です。ただし、高血圧や糖尿病といった、腎臓そのものの機能を悪化させる病気を抱えている場合は、そうした病気を悪化させないために、日常生活での注意や服薬が必要になる場合があります。治療担当医らの注意をよく聞いて生活するよう心がけてください。

治療後の体の状態や、がんの転移・再発の有無を確認するために、一般的には定期的に通院して血液検査や画像検査を行います。
転移や再発を早い段階で見つけることで、手術を含めたさまざまな治療が選択でき、治療効果の向上も期待できます。
腎細胞がんは、治療後10年以上経過してからも再発を起こすことがあります。
病院への定期通院が終わったあとも、健康管理の意味も含めて、健康診断や人間ドックなどを受けましょう。