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前立腺がん

はじめに

近年、わが国では高齢化や食生活の欧米化などが原因で前立腺がんと診断される人が増えています。
前立腺がんの罹患数(推計値)は2015年、2016 年の調査で男性がんの第1位となりました(国立がん研究センターがん対策情報サービス「がん登録・統計」)。
前立腺がんに罹患する患者さんの数は増加していますが、早期発見、早期治療により根治が可能です。
医学の進歩により前立腺癌は早期診断が可能となり、体の負担の少ない治療方法が次々に開発されています。

前立腺の場所と働き

前立腺は男性に特有の臓器で膀胱のすぐ下にあり、尿道を取り囲むように存在しています。
大きさはクルミ大で精液の一部を作っています。直腸と接しており、肛門から指を挿入して触診することが出来ます。

前立腺の解剖と触診
前立腺の解剖と触診
NATOM IMAGES ©Callimedia

症状

前立腺がんは尿道や膀胱から離れた部位に発生し、一般的にゆっくりと進行することから、初期では全く症状が見られません。
しかしながら、がんが進行すると尿道を圧迫して尿が出し難くなったり、骨に転移して痛みを引き起したりすることがあります。
何らかの症状が出る前に早期の段階で見つけることが重要です。

特徴

前立腺癌は50歳を過ぎたころから急速に増え、70歳代にピークが見られる高齢男性に多くみられるがんです。

2013年の前立腺癌羅患患者数(全国推計値)

また、前立腺がんは家系内で多く発生する場合があります。
前立腺がんの家族歴のある人は前立腺がんに罹患する危険性が2.4-5.6倍高いといわれています(前立腺癌診療ガイドライン2016年 CQ2)。
親兄弟や親戚に前立腺がんにかかったことのある人がおられるような場合には早めの検診が必要です。

検査

PSA

前立腺は精液の一部(前立腺液)を作ります。
前立腺液の中にある精液をサラサラする成分をPSA(ピー・エス・エー)といいます。
がんや炎症で前立腺の細胞が壊れると血液中にPSAが漏れ出し、血液検査で確認されます。
PSAの基準値は一般的に4ng/ml以下とされており、4-10ng/mlの範囲内であれば、前立腺がんが発見される確率は約30%とされています。

前立腺生検

PSAの値から前立腺がんが疑われた患者さんに行います。
おしりから超音波エコーを挿入して前立腺を確認し、針を刺して前立腺から組織を採取します。

当科では腰椎麻酔(半身麻酔)あるいは全身麻酔下に、痛みがない状態で前立腺生検を行います。
また、2回目、3回目の前立腺生検を行うことになった患者さんには前立腺MRIの画像を前立腺生検前に行い、前立腺生検中の超音波画像と重ね合わせることで前立腺癌の診断精度の向上に努めています(MRI fusion 前立腺生検)。
採取した組織は病理学的検査を行い、前立腺癌の有無を確認します。
またGleason score(グリーソンスコア)で前立腺癌の悪性度の高さを評価します。

CT、骨シンチ

前立腺生検にて前立腺癌と診断された患者さんにはCT、骨シンチ検査を行い、肺・リンパ節・骨などに転移をしていないか確認します。

前立腺がんの病期分類

前立腺癌の進行の程度はTNM分類で表します。

  • T(局所の広がり) 直腸診やMRIで評価します
  • N(所属リンパ節転移の有無) CTで評価します
  • M(遠隔転移の有無) CTや骨シンチで評価します

前立腺癌のリスク分類

T分類、PSA値、グリーソンスコアを組み合わせて、予後(治療経過)が同じような傾向の患者さんをグループ分けする方法です。
一般にD’Amico(ダミコ)のリスク分類を用いて、低リスク群、中間リスク群、高リスク群にグループ分けします。

治療

前立腺癌の治療は病期・リスク分類により選択肢が変わってきます。
前立腺がんが前立腺内にとどまっていれば局所限局がん、前立腺がんが前立腺の外側に広がりを見せれば局所進展がん、リンパ節や他の臓器に拡がれば転移がんとなります。

局所限局がんの治療選択肢は監視療法、手術、放射線治療、ホルモン療法があります。
局所進展がんの場合には放射線療法とホルモン療法が選ばれます。
遠隔転移を有する場合にはホルモン療法がおこなわれます。
ホルモン療法中に病気が進行した場合には抗がん剤治療が行われます。

監視療法

前立腺癌は高齢者に多く発生し、比較的進行が遅いという特徴があります。
また、PSA検査の普及によって非常に早期に発見されることが多くなってきました。
それらの中にはおとなしい性格の癌で、急いですぐに治療を開始しなくても当面は命に関わらないだろうと考えられるものが多く含まれていることがわかっています。
そのような癌に対して直ちに手術や放射線治療を行うのではなく、定期的にPSAを測定したり、定期的に前立腺生検をしたりして経過を観察する方法が監視療法です。
きめ細かい観察によって、癌の進行の徴候をいち早くとらえて、必要ならばそこから根治療法に切り替えるというものです。
これは前立腺癌に対する過剰治療や治療による副作用を避ける方法の1つです。

現在、監視療法はオランダのエラスムス大学を中心に世界的に多くの国が参加して大規模な研究が進行しています。
わが国ではわれわれの香川大学が日本全国の主要大学病院および基幹病院の代表として参加しています。

監視療法の適応となる患者さん

前立腺癌の中でも特におとなしいと考えられるタイプの癌が適応となります。
診断時のPSAやグリーソンスコア、生検での陽性本数などを総合して決定します。
つまり、すべての前立腺癌患者に適応となるわけではありません。

監視療法の方法

基本的に3ヶ月ごとのPSA採血とエコー、直腸診などの診察を行います。
また、1年後とその後も適宜前立腺の生検を行い、前立腺癌が悪化している徴候があればその時点で手術や放射線療法などの積極的治療を勧告します。

監視療法のリスク

たしかに、診断時の前立腺生検所見やPSA値だけでは完全におとなしい癌だと診断することは難しい面があります。
これにはやはり約20-30%の過小評価があると思われます。
だからこそ経過観察中の定期的なPSA測定や前立腺生検が重要になってきます。
リスクを十分に理解して、定期的な検査が確実にできる人に対して行われる治療法です。

杉元幹史教授が2020年11月22日腺友倶楽部主催のMo-FESTA CANCER FORUMで「前立腺がん検診と監視療法~過剰治療を避けるために~」というテーマで講演いたしました。是非ともご覧ください。

手術療法

開腹手術、腹腔鏡手術、ロボット支援腹腔鏡下前立腺全摘術があり、一般に局所限局がんの患者さんに行われます。
香川大学では2013年よりロボット手術を行っています。詳細はロボット手術の項を参照ください。

放射線療法(小線源療法)

香川大学では2006年より局所限局がんの患者さんに小線源療法を行っています。
詳細は小線源療法の項を参照ください。

放射線療法(金マーカー併用外照射療法)

一般に局所限局がん、局所進展がんの患者さんに行われます。
外照射療法は治療に用いられる放射線の種類によりX線治療と粒子線治療(陽性線治療、重粒子線治療)に分けられます。粒子線治療は専用の装置(大型の加速器)が必要であり、粒子線治療専門の治療センターで行われています。

香川大学では外照射療法を強度変調放射線治療(IMRT)で行っています。
更に、外照射療法前に金属製の小さな目印(VISICOIL®)を前立腺に埋め込み、放射線治療の際の位置決めを正確に行います。
正確な照射を行うことで、放射線治療の効果を高めて副作用を減らすことに努めています。
IMRTの詳細については香川大学 放射線治療科のホームぺージを参照ください。

香川大学医学部 附属病院 放射線治療科

ハイドロゲルスペーサー(Space OAR)を併用した放射線療法

Space OARは前立腺がんに対する放射線治療で起こりうる直腸炎や直腸出血に代表される直腸の合併症を減らす目的に開発されました。
Space OARはハイドロゲルで前立腺と直腸の間に注入し、その間のスペースを拡げることで、直腸への照射線量を低減させます。

図a
図b
(図a、b:写真提供 ボストン・サイエンティフィック ジャパン株式会社)

なおこのハイドロゲルは注入後約3ヶ月間スペースを維持し、約6ヶ月かけて体内に吸収されます。

当科では2019年8月からSpace OARシステムを導入しております。

適応は、前立腺がんに対して放射線治療(小線源療法、外照射療法)を受ける患者さんが対象になります。ただし、前立腺背側の被膜外浸潤や直腸浸潤がある患者さんには対象になりません。適応かどうかは放射線治療科と相談して決めています。

ホルモン療法

ホルモン療法の主な適応は、転移を有する患者さん、重篤な合併症などにより根治療法が行えない患者さんです。
また、放射線治療効果を高めるために局所進行性前立腺癌の放射線治療に併用されることもあります。

前立腺はアンドロゲン(男性ホルモン)の影響を受けて分化・増殖し、その機能を発揮します。
前立腺から発生する前立腺癌もその性質を受け継いでおり、男性ホルモンに依存して増殖していきます。
前立腺癌に作用する男性ホルモンを除去・遮断する治療法をホルモン療法といいます。
男性ホルモンは主に精巣で産生されますが、両側の精巣を摘出することで精巣からのテストステロンを除去する方法を外科的去勢術といいます。
1941年にこの方法を考案したHuggins博士は、前立腺癌に対するホルモン療法の有効性を明らかにした功績でノーベル賞を受賞しました。

脳にある下垂体という臓器から出てくるホルモン(LH;黄体化ホルモン)の刺激により、精巣の男性ホルモンの産生が促進されます。
脳の下垂体に働きかけLHの分泌を抑制する注射薬(LH-RHアンタゴニスト、LH-RHアゴニスト)は外科的去勢術と治療効果はほぼ同等とされています。
内服薬に抗アンドロゲン剤があります。前立腺癌細胞がアンドロゲンを受け取るためにはアンドロゲン受容体が必要です。
このアンドロゲン受容体と結合し、アンドロゲンの刺激が前立腺癌細胞に届かないようにするのが抗アンドロゲン剤です。

ホルモン療法は定期的な通院にて治療が可能ですが、独特な副作用があります。
主なものに性機能障害、ホットフラッシュ(のぼせ)、筋力低下、体重増加、骨粗しょう症があげられます。

抗がん剤治療

一般的にホルモン療法が無効となった患者さん(去勢抵抗性前立腺癌の患者さん)に行われます。
ドセタキセル、カバジタキセルが使用されます。
主な副作用に食欲不振、脱毛、倦怠感、骨髄抑制(白血球減少、貧血、血小板減少)、肝機能障害、末梢神経障害、間質性肺炎があります。